「クチとオク」—住まいの奥深い民俗学的視点
「クチとオク」—住まいの奥深い民俗学的視点
住まいの構造を民俗学的に読み解く
日本の住文化において、「オモテ↔ウラ」「カミ↔シモ」といった空間概念が長らく研究されてきました。しかし、森隆男氏はこれらに対し、新たな視点として「クチ⇄オク」を提唱します。本書『クチとオク 住まいの民俗学的研究の一視座』では、住まいの構造をこの視点から分析し、民俗学的な秩序を明らかにしています。
「クチ」と「オク」の概念とは?
「クチ」とは、住まいの入り口や外部との接点を指し、「オク」はその奥深い空間を意味します。この対比を通じて、住まいの開閉性や動線、さらには祭場や儀礼空間との関係が浮かび上がります。
住文化の多様性を探る
本書では、沖縄・奄美・九州・四国・関東・東北など全国的な実地調査をもとに、「クチ⇄オク」の原理がどのように住文化に根付いているのかを検証しています。例えば、南西諸島の住まいでは通過儀礼の動線が「クチ」と「オク」の秩序を形成し、都市部では住まいの開閉性が異なる形で表れます。
女性と「オク」の関係
興味深いのは、「オク」が女性の領分と深く関わる点です。納戸神を祀る村や、南西諸島に見られる女性原理、対馬の住文化と女神信仰など、住まいの奥深い空間が女性の役割と密接に結びついていることが示されています。
未来の住文化への示唆
本書の結論では、住まいの秩序を「クチ⇄オク」の視点から再考することで、現代の住環境における交流の場を取り戻す可能性が示唆されています。家族や地域の人々との関係を深める空間づくりが、住まいの「奥深さ」を再構築する鍵となるかもしれません。
『クチとオク 住まいの民俗学的研究の一視座』は、日本の住文化を深く理解するための必読書です。住まいの構造に秘められた秩序を探求し、未来の住環境を考えるヒントを得てみませんか?